
「リモート撮影」という新しい映像製作
コロナ禍であっという間に浸透したテレワーク。事務系のお仕事がテレワークになることは難しくない気がするが、驚くことに動画撮影の世界でもテレワークが進んでいるようだ。
ヨーロッパに本社がある総合広告代理店のクリエイティブ・ディレクターK氏にお話を伺った。
リモートワークの下地
グローバルに展開している企業は、そもそもリモートワークに慣れていた。K氏も「本社採用のため、Web会議などオンライン上でのやり取りには以前より慣れっこ」だったと言う。
日本ではなかなか取り入れられないJOB型雇用も浸透しており「仕事単位でアサイン」されるのが当たり前。どんな働き方をしていても「成果が出ればOK」だが「成果がなかったらクビ」という厳しい世界でもある。
また、言語や生い立ちが違うプロフェショナルが集う職場のため、特に映像撮影のような「イメージ」のやり取りにはとても気を遣う。仕事に関わる人がすべて同じ方向を向けるよう、撮影の際には分厚い「Treatment(場面の構成などを詳しく記載したもの)」が用意される。
「空気を読み」「阿吽の呼吸」で撮影が進んでいくことが多い日本の現場とは違う。
コロナで変わった流れ
新型コロナの蔓延で「撮影ができない」という状況になったのは各国共通。当初欧州の映像業界では「既存動画を編集し直して使う」という流れになった。ただ、それも短い間のこと。新たに撮影しなければ良いものにはならない、というクライアントが出始めた。
とはいえ新型コロナ対策でなかなか人が集まることは難しい状況。そこで、取り入れられたのが「リモート撮影」だ。
撮影の現場にいるのは最小限のスタッフのみ。多いときには100名ほどがいた撮影現場にはたったの4名しかいないことも。人の代わりに現場にあるのは、Webに接続されたカメラ。撮影現場を各国にいるスタッフに配信する。
演者も別場所で単独撮影。「編集技術でいくらでも合成できる」ため、こちらも最小限のスタッフで撮影を行う。
驚くのは「普通なら現場にいるであろう、プロデューサーやクリエイティブ・ディレクターも、クライアントもリモート参加」ということ。「Treatmentがしっかり作られているから、現場で細々指示する必要がない」からだと言う。
お金をかけるところを変える
現場に行くスタッフが減ったことで「交通費や食事代などが大幅に減った」という。浮いたお金はまずはカメラの購入費用に。リモートスタッフに現場の様子を伝えるための投資だ。
さらにクルーに「医療関係者」を雇い入れるための費用にもあてられた。医療スタッフは現場の新型コロナ対策をサポートする。
欧州では「クライアントがエージェンシーを評価」するだけでなく「エージェンシーがクライアントを評価する」という制度がある。発注側も受注側も、雇う側も雇われる側も評価されるのだ。このおかげで、クライアントもエージェンシーも「スタッフが安心して働ける現場」を作るための手間とお金は惜しまない。
さらに経費を下げることができたら「いいものを作るために使う」。もともと欧州の制作現場は「クリエイティブにこだわる」のだという。日本の現場でみられるような「撮影がおしているからこのあたりで・・・」と妥協することが一切ない。お金があるなら「とことん作り込む」のが欧州流。
エージェンシーの営業も「自分たちはクリエイター」であるという自覚を持って働いている。「クリエイティブを売っている」のだから「良いものを作って当たり前」なのだそう。
JOB型雇用も、クリエイティブへのこだわりも、日本ではなかなか根付かない習慣かもしれない。ただ「業種的にうちはリモートが無理」だと思いこんでいる企業も、もう一度やり方を考えてみてもいいかもしれない。
HIGHLIGHT
動画撮影もリモートの時代。
新しい働き方をこれからも模索していく必要がありそうだ。