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Interview

伝統技能の守り方㊦ 産業として守る

2022.1.17

存続の危機に直面している細川紙。小川町ではこの技術を伝承するため様々な取り組みを行っています。その一部をご紹介します。

感覚だけが頼り

職人が細川紙を漉けるようになるまでは数十年かかる。まっとうな和紙が漉けるようになるまで細川紙の技術は伝承されないためだ。

手漉きの技術は「感覚だけが頼り」だ。「楮(こうぞ)何グラムにトロロアオイを何グラム混ぜればできる、というものではありません。暑さ寒さ、水温、湿気など都度変わる条件に合わせて変えていく必要があります」と保田さん。
紙漉き修行中だという女性の和紙を触らせてもらったが、全体的に厚くムラがあった。「水につけたらボロボロになると思います」。

細川紙は薄くかつ丈夫な和紙。楮の繊維どうしを複雑に絡ませることで丈夫さを出しつつ、薄く仕上げる必要があるが、そこには高度な技術が必要になる。一定の紙漉き技術を持つ者にしか伝承できないのはそのためだ。

産業として守る

「感覚だけが頼りで、技術を身につけるまでに時間がかかる」ということは長く「食べられない期間」が生まれてしまうということ。これが伝統技能の伝承を難しくしている要因のひとつだ。「ペーパーレスの時代、さらに和紙は売れなくなりました。弟子をとれる工房も少ないです。文化財としてばかりではなく産業として守らないと」と保田さんは強く訴える。

小川町では子供たちの紙漉き体験など広く紙漉き技術を知らしめる活動とともに、紙漉きの技術を伝承してくれる人材の育成も行っている。3年に1度希望者を募り、3年間でひととおりの紙漉き技術を教え込む。

先の修行中の女性も、その研修生のひとりだ。
研修生は授業料無料で指導を受けられるが、支払われる給料もない。「大卒の若い男性が応募してくれてうれしかったが、3年間は無給であることを伝え考え直してもらったこともある」と保田さん。

感覚だけが頼りの技術だから教える側も間違うことがある。「アルバイトでも何でもして学んでやろうという強い気持ちと、探求心がないと続けられない」という。

自ら営業できる職人を

研修生は紙漉きの技術のほかにお客様対応や、営業の仕方なども教えられる。
小川町の「和紙フェスティバル」や「七夕まつり」といったイベントに積極的に参加させ、直接お客様と話をする経験を積む。

卒業間近になると「卒業証書」の研修がはじまる。同じ厚さ、大きさの紙を何百枚と漉く。小川町にある小中学校の卒業証書はすべて手漉き和紙だし、他市町村のものもあわせると毎年4万枚以上を小川で生産しているという。

和紙の卒業証書。透かしが美しい。

研修生には「最初に自分の母校に営業しなさい」と教えるという。「必ず残る紙」「100年持つ紙」など宣伝用のキーワードも教える。さらに「破れない紙」という特性を生かして結婚式場などへの営業も促したりもした。

和紙の加工製品の開発にも積極的に取り組んでいる。「年賀状ですら発行枚数が減っている今、ただの紙は売れません。ランプシェードやコサージュなど加工品の作成と販売も広める必要があります」と保田さん。紙漉き研修を受けながら和紙の加工の道に進んだ卒業生もいると嬉しそうに語った。

和紙のコサージュ

研修生が育ちつつあるとはいえ、まだまだ危機的状況にある細川紙と小川の和紙。長く続くことを祈りたい。