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Interview

地域猫活動が地域力をあげる - 大府市の取り組み -

2022.4.25

コロナ禍でペットブームが続いています。新しく飼いはじめる方が多い一方、「思っていたより大きくなった」「うるさかった」など、ペットを手放す人もいます。
今回は捨てられた猫たち、増えてしまった猫たちと地域をどう守っていくか・・・愛知県大府市で「地域猫活動」を推進してきた久野幸裕さんにお話を伺いました。

地域猫活動とは

「地域猫」とは「特定の飼い主のいない猫で地域住民の理解と支援のもと管理されている猫」のこと。地域の人々に餌をもらい、見守られて生きている猫たちだ。この地域猫たちを管理する活動が「地域猫活動」だ。

活動は猫の存在を確認することからはじまる。定期的に餌やりをし、餌場が汚れないよう掃除をする。きれいなトイレを用意し、トイレのしつけをする。さらにこれ以上猫が増えないよう、捕獲し不妊手術を施す。手術後の猫は耳をカットし、一目でわかるようにして元の場所にはなす(コラムのトップ写真の猫も左耳をカットされている)。猫はあくまでも「地域の猫」として特定の誰かに飼われることなくその生涯をまっとうする。

これまでは善意の寄付などで行われてきた活動。これを大府市では全面的にサポートすることで猫問題に導いてきた。

地域猫活動をはじめるまで

地域猫活動が生まれた背景には地域住民からの様々な苦情がある。1つ目は猫そのものに関するもの。「庭の芝生でうんちをされた」「ゴミをあさられた」「鳴き声がうるさい」などなど・・・。2つ目は近隣トラブル。「餌をやっている人がいるから」猫が増える、地域が汚れるのだと、特定の人に責任をなすりつけることで起こるトラブルだ。

こうした苦情は市役所に寄せられることが多いが、これまでは県や保健所などをたらい回しにされて解決しないことも多かった。役所側もこれといった解決策も予算も持てていなかったためだ。

大府市にも猫問題の予算、担当課はなかった。しかしこれを「環境問題」ととらえ環境課で対応することにした。猫に対して税金を使うのではなく「環境美化活動」に使うのだという「考え方の転換」で予算化に成功したのだ。

三者の協力が必須

地域猫活動には「ボランティア」「行政」「地域住民」の協力が不可欠だと久野さん。
「ボランティア」は早いところでは20年前から地域猫活動をしてきたという。猫の捕獲や管理など「行政が知らない情報」を多く持つ。だが資金的には常に苦しい立場にいる上に、地域住民からは「猫好きが勝手なことをしている」ととられやすい。

「行政」は資金と信用、場所の提供でボランティアのサポートを行い、「地域住民」の理解を得るために動く。圧倒的な信用力はボランティアの大きな支えになる。「行政が支援しているならまっとうな団体」なのだと理解してもらえる。

「地域住民」は地域猫活動の主役だ。
とはいえ、地域住民には「猫嫌い」もいれば「無関心」な住民もいる。大府市では、「猫問題は環境問題」として提議し「まずは地域の方に状況を知ってもらうことに注力」したという。公民館などの場所を提供し、何度も説明会を行った。

三者に協力的な獣医師がいるとさらに活動は広がりやすいという。大府市では多い日には2日に60匹の猫の不妊手術を行ったことがある。「獣医師の協力なくてはできませんでした」。

地域力が上がる

地域猫活動は猫問題を解決するだけではなく「地域力が上がる」と久野さん。何度も会合を繰り返すうちにお互いを知り、猫をきっかけに挨拶や会話をするようになっていく。地域がまとまっていくのだという。
餌やりのおばあさんの家に子どもたちが集まるという、微笑ましい光景も見られるようになった。「地域猫活動は猫をキーにした『向こう五十軒両隣活動』とも言えます」。

地域猫活動に使われる税金がもったいない、高額なのではと危惧する声もある。しかし、かかる経費は活動が進んでいくにつれ減少する。外で暮らす猫の寿命は、家猫の半分にも満たない4、5年と言われている。活動が進み年月が経てば匹数は確実に減っていく。 さらに地域の「動物死体処理費」も減少している。大府市では猫を処理するためにかかった費用が平成23年に約200万円だったが、平成30年には90万円弱まで減ったのだ。

活動を広げる

次のステップとしては「近隣自治体」にも同様の取り組みをしてもらうこと。猫の活動範囲はそれほど広くはないが、隣接地域からの流入は避けられないためだ。大府市周辺のみならず、全国でこの取組を広げようと久野さんはあちこちで講演などを行っている。

そして、大府市での取り組みはさらに一歩進んだ形になっている。
これまで役所は「地域猫活動」にかかる経費を都度精算する形で処理してきた。今は一括で地域に支払い、その管理を一任している。役所での手続きに比べ、よりスピーディーに精算ができる上に地域内での会話も増える、一石二鳥の体制だ。

「動物を捨てることは犯罪です。でも捨てられてしまった動物には何の罪もありません。一代限りにはなりますが、地域に愛される猫として天寿を全うしてもらいたい。」と久野さん。「地域力を上げるためにも良い活動です。全国に広まってくれればと思います」。

INFO

大府市 条例の概要:所有者等がいない猫への給餌Web
おおぶ地域ねこの会Web
日本全国ネコ会議