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【寄稿】龍の話あれこれ

2023.5.22

まもなく訪れる雨の季節。古代中国では「龍は天に昇って雨を降らす」と信じられてきました。本日はその「龍」に関するお話を外山さんから寄稿していただきました。

インドのナーガ信仰

仏教寺院の木鼻彫刻や天井画に、龍が配される例は珍しくない。手水舎の吐水口に龍の像が置かれることもある。龍という動物は、古代中国で皇帝の象徴として創作された想像上の霊獣だ。それが、インド発祥の仏教様式に採り込まれている。その混淆の過程を解きほぐしてみたい。

仏教以前から古代インドには、部族の守護神(トーテム)としてナーガ(Naga)を崇拝する土着信仰があった。ナーガとは、インドに多く棲息する毒蛇・コブラを神格化した蛇神だ。

他にも、クジャクをトーテムとしたり、迦楼羅(garuda=金翅鳥)を守護神としたりする部族があった。クジャクは毒蛇や毒虫さえも捕食する。迦楼羅は龍や蛇を常食とする架空の巨鳥。当然、ナーガ信仰族との敵対を意味している。これらの部族間抗争を釈迦が仲裁したという、信じ難い話もある。

このクジャクや迦楼羅とともに、ナーガは仏法守護神として仏教に採り入れられる。日本ではナーガ龍王や八大龍王などと呼ばれる。多くは上半身が人で、下半身がヘビという半獣半人。さらに、頭上に五蛇や七蛇を載せる姿に描かれる。

仏教が中国に伝えられるときに、このナーガを龍と漢訳した。中国にコブラはいない。人々の理解のために、皇帝の象徴とされる古来の架空霊獣である龍に付会したものだ。インドは、現在もヘビ信仰大国といえる。全般的には、多頭のコブラとして表現されることも多い。しかし、そこには中国的な龍の姿はない。

仏教は、中国経由で日本に伝えられた。そこでは、コブラ形の蛇神ではなく、中国的龍がイメージされた。さらに、この龍神は、日本古来の八岐大蛇など大蛇信仰神話伝説と習合される。このような経緯のために、日本の民間行事の藁蛇や龍神では、龍と大蛇を区別しにくい姿となる。

龍の三患

龍は無敵の王者のように思われる。ところが、仏典では龍の三患または三熱と称して、龍の悩みを以下のように列挙する。

一.熱風熱砂に焼かれる苦悩。
一.悪風が吹きまくって住処の宝や衣を吹き飛ばされる苦悩。
一.迦楼羅に食われる苦悩。

龍は、本来がコブラだから、砂漠のような乾燥猛暑には弱い。中国に渡って龍と呼ばれても、仏教的には強風をともなう竜巻は苦手らしい。迦楼羅は龍の天敵として創作された霊鳥だ。なお、竜は龍の略字で、意味に違いはない。

このような三患から逃れられる龍の安息の地は、ヒマラヤ奥地にある阿耨達池という幻の大湖。別名を無熱池または無熱悩池という。無熱とは清涼の意だ。菩薩が龍に化して清浄な水を滔々と吐き出しているとされる。平安前期に、神泉苑で請雨の法を修した空海は、阿耨達池から善女竜王を勧請したという。その化身である清瀧権現も勧請された。

寺社の手水舎に見られる竜の口(竜頭の吐水口)は、この阿耨達池を意味すると考えて差し支えない。

竜の口と獅子頭

神道の水神は罔象女神、仏教では弁才天が知られる。これとは別に、龍は「よく雲を呼び、雨を降らす」ことから、中国や日本では水の守護神とされる。西欧で水の守護神といえばライオンだ。その理由は、百獣の王による庇護とか獅子座による洪水予測、ライオンは水を飲まないから、など怪しげな諸説がある。

いずれにしても、ローマのトレヴィの泉やイギリス領だったシンガポールのマーライオンなど、獅子頭を吐水口としている例は西欧に多い。戦前の日本で、町内の路傍に設置された共用水道栓の吐水口も、イギリス製の獅子頭だった。

のちに、竜の口に代わっても、水栓全般を蛇口と呼ぶようになるのは、日本的な龍蛇混同の表れであろう。

日本では龍と蛇が混同されているとは驚きです。蛇、竜、龍などが地名に含まれている土地では、過去に大規模な土砂災害が発生したとも聞きます。今年の梅雨が災害がないまま終わることを祈ります。

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